日本経済が元気にならない背景のひとつに、アベノミクスのトリクルダウン効果が、中小企業、とくに中小の下請製造業者に浸透していかない問題があります。政府はその原因として大企業による買い叩きの横行を問題視していますが、中小製造業者の企業利益が増えない原因はそれだけではありません。

下請製造業者の利益(付加価値)創出においては、価格問題よりも親会社からの発注量変動の方が大きな影響を与えています。下請業者が親会社からの発注量変動にあわせるためには、ピーク時に対応できる設備投資や人的投資をしておく必要がありますが、過度な生産変動によって工場の平均稼働が落ちてしまうと、投資に見合うだけの企業利益(付加価値額)を得ることができません。労働生産性(一人当たり付加価値)も悪化してしまい、従業員の給料増加にもつながっていきません。

実際に工場の労働生産性をあげるためには、生産変動を抑える対策すなわち生産平準化の推進が大きな効果を発揮します。たとえばトヨタが力を入れている生産平準化によってトヨタグループの下請企業も安定利益をあげることができています。

生産変動を抑制して生産平準化を実現するもっとも有効な施策は前倒し生産による在庫品の作りこみです。ところが親企業がジャストインタイム生産による過度な在庫削減を目指しすぎると、下請業者の生産が変動しやすくなり、労働生産性も悪化してしまいます。

現在、日本の大企業の過半は実質無借金状態にあり、しかもアベノミクスによる金融緩和によって大企業の資金繰りは大きく改善されています。また、マイナス金利政策で金利負担も低い水準ですので、大半の大企業は無理に在庫削減を進めなくても大きな経営課題にはなりにくい状況です。

それにもかかわらず大企業が教条的に在庫削減やジャストインタイムの推進を図ることで、中小下請業者の労働生産性は低下し、企業利益も資金繰りも悪化します。必然的に従業員の収入も上がらず、消費需要にもつながっていきません。それが現在の日本の製造業界の低迷を生んでいます。

買い叩き防止ための根上げ交渉は親会社の製品競争力低下に影響する心配があるため、親会社としても受け入れがたい可能性があります。ところが、在庫品の先行生産や先行調達による生産変動抑制(生産平準化)は、親会社の生産性向上にもつながる話です。

アベノミクスの効果を発揮させるためには、政府は大企業に対して過度なジャストインタイム調達を見直して、在庫を駆使した生産変動抑制に取り組むことを求めていくべきではないでしょうか。