今回のトラブル事例は生産管理システムを入れたのに部品展開計算ができずに、個別に部品注文を入力して注文書を発行している企業の話です。

 部品展開計算ができないのであれば生産管理システムを導入した意味がないのではと思われる方も多いと思いますが、こうした企業は思いのほか多数存在します。

 ここまでひどい状態だとさすがにベンダに騙されたといえるのではないかと思いますが、貴社は大丈夫ですか。

ベンダに騙されてはいませんか。

【トラブルカルテ

業務効率化を目指して生産管理パッケージを導入したのに業務効率が悪化した

 A社は年商50億円の電子制御ユニットのメーカです。取引先の機械メーカーからの委託で電子制御ユニットを製造し、納品しています。

 機械製品の電子化が進んだことにより、取引先の機械メーカ数も、製造する制御ユニットの数も増加しています。それとともに制御ユニットに使う電子部品や機構部品の種類や手配数も増え、購買部門の発注工数増が問題となってきました。

 A社の工場では購買部門の負担軽減のために生産管理システムの導入を決めました。それまではユニットごとに作ったExcel表により部品の手配数量を計算して個別に部品発注していました。

 生産管理パッケージのベンダに相談したところ、生産管理パッケージではMRP機能を使って部品展開計算するので各ユニットのBOM(部品構成表)と生産計画さえ入力すればほぼ自動で部品の注文ができると提案されました。

 工場はベンダ提案に乗った形で生産管理パッケージ導入を決断し、導入作業がはじまりました。生産管理パッケージの導入作業はベンダ担当者と情報システム部門の人間が中心になって行いました。

BOMの内容をパッケージにマスタ登録できない
 システムの構築・テスト作業はデモ用のサンプル製品を使って実施しました。BOMに基づく部品展開計算も順調に進み、システムからは想定通りに部品注文書が出力されました。A社では他の製品にも適用することにし、新システムのBOMマスタの登録作業を開始しました。

 ところが登録作業を始めた途端に重大な問題が発生しました。制御ユニットのBOM原票はA社が作成しているとは限りません。A社が受託して開発設計しているユニットのBOMはA社で作りますが、取引先から提供された図面やBOMリストを使って製造しているユニットもあります。

 テストで使ったBOMはA社開発品でした。生産管理パッケージのBOMマスタはパッケージのBOMマスタの形式にあわせて登録するのが基本ですが、様々なパターンのBOMを登録することは難しいことが判明しました。

 しかも、マスタ構造はMRP機能に合わせるために高度化しており、Excelのように簡単にカスタマイズして作成登録することはできませんでした。たとえば元のBOMにはないファントムという仮の構成部品登録が必要となるといったことなどが必要でした。

部品展開はあきらめて個別に発注することになった
 新生産管理システムのBOM登録作業は誰でもできる業務ではありません。A社の設計要員が取引先のBOMを整理し直し登録する必要があります。ところが、取り扱い製品が増えたこともあって設計要員は絶対的に不足していました。本番開始までにBOM登録が間に合うかどうかわかりませんでした。

 A社の工場はベンダと相談した結果、新生産管理システムの部品展開機能を使うことをあきらめ、Excel表を復活させて、そこで計算された部品名と数量を個別にシステムに入力することで注文書を発行させる形にしました。単なる注文書の発行機としての使い方です。注文書自体はシステムからでてくるために一見すると生産管理システムが機能しているようにみえますが、生産管理のためのシステムとしては不十分です。

 購買現場からは昔よりも事務工数が増えたという苦情が上がっています。しかし、情報システム部は工場は経営者から投資責任を追及されるのを恐れて新システムは想定通りの効果をあげていると報告しています。

診断結果と処方せん

BOMはどこでも同じと考えず、構築前に実態を分析してからシステム構築する生産管理パッケージ、とくにMRP型のパッケージはBOMを用いた生産手配がシステムの基本機能になっています。そのため、システムを利用するためにはBOMの登録は欠かせません。

 ところが、A社のようにパッケージのBOMマスタの構造や内容を十分に確認しないままに安易に生産管理パッケージを導入するプロジェクトが跡を絶ちません。高い金を出して生産管理システムを導入したはずなのに部品展開ができず、個別に部品発注せざるをえない状況に陥っている工場が多数存在します。

 この問題の原因はユーザ企業側のBOMの重要性に関する認識不足があります。BOMはその工場の業務内容を決める大切な情報です。事前に自社のBOMと生産管理パッケージのBOMをしっかりと比較してマッチングするかどうか確認してからパッケージの導入を判断する必要がありますが、それをせずにシステム構築作業をしてしまった可能性が高いと思われます。

 本来であればベンダ側も注意すべき話ですが、営業ノルマに追われるベンダは途中解約をおそれてみないふりをすることもあります。問題がわかってからでも遅くはないので、当該生産管理パッケージをこのまま使い続ける意味があるのかの分析をすべきです。

 もしも自分たちだけでは分析できないのであればコンサルタントに支援を依頼します。ただし、生産管理パッケージにあわせてBOMをかえるといったことは簡単にはできません。事例企業のように自社だけでは変更できないケースもあります。

 経営者からは投資を無駄にできないといわれるかもしれませんが、だからといって事務工数ばかり増えるだけで十分な管理のできないシステムをそのまま使い続けていくことは推奨できません。傷口が広がらないうちにゼロから方針検討することも考えるべきです。