日本には取引先からの注文によって製品を作る受注生産型の製造工場が多くあります。受注生産型工場の受注処理は内示情報と確定注文の2段階で行われることがことがあります。最近、その内示数量と確定注文数量に差異が生じるケースが増えており、それが日本の製造工場の生産を混乱させています。

【トラブルカルテ】

・取引先からの内示数量が頻繁に変更されるために、工場の生産が振り回されている

A社は金属材料を加工して部品に仕上げて納入している下請け型の加工部品会社です。大手の製品組立メーカB社からの注文が中心です。工場内には板金切断、曲げ、溶接、塗装の工程があり、標準的な製造リードタイムは約1か月です。

B社からは6か月前から内示情報(月単位の予定数量)が流れてきますが、確定注文(日単位の納入指示数量)は組立日程計画にあわせて1週間前にならないと届きません。A社向けの部品は1週間では生産できないため、B社からの内示情報をもとに製造開始しています。B社の最終製品は計画生産を基本としています。今までは計画変動は少なかったために内示情報で製造開始しても大きな問題は生じませんでした。

・B社からの内示情報があてにならなくなった

最近、B社の内示数量が頻繁に変更されるようになりました。内示情報と確定注文に差異があるケースも増えています。傾向的には内示数量の方が大きく、確定注文数が少ないケースが多くあります。A社はB社の購買部門になぜ内示が変動するようになったのかを確認しました。B社からは変動の原因は需要変動や販売計画精度が低下したことと、納期遅れを起こす部品が増えてきたことが影響しているという説明がありました。

B社にはかつてトヨタ生産方式(TPS)のコンサルタントが入ったことがあります。そのコンサルタントの指導により購入部品在庫量を最低限まで絞っていました。その結果、一部品の納期遅れが発生すると、組立ラインを停止させざるをえなくなります。今までは各部品会社の献身的な努力により、そういうケースはほとんどありませんでした。ところが、一部の部品が納期遅れするようになりライン停止が発生するようになりました。

B社の調達では組立ラインの停止にあわせて、組立に使う全部品の確定注文をストップさせる仕組みになっています。そのため、特定部品の欠品でラインを停止させると、他の部品会社には内示数量よりも少ない数量の確定注文しかでなくなります。

さらにB社では生産停止による減産数を次月に挽回しようとするので、次月の内示では減産分が自動的に積み上がる現象も起きていました。製造能力不足で積み上げに対応できない部品会社もおり、それが新たな部品の納期遅れを誘発しました。

・A社の資金繰りが心配される

A社はB社の内示情報にあわせて製造していました。確定注文数量が少なくなったとしても内示分はいずれは注文が出るからです。しかし、直近では内示の半分以下しか注文が出ないケースもあり、先行手配分の資金面が心配されるようになっています。

【診断結果と処方箋】

・B社への改善要求と自社での業務改善をあわせて実施する

この問題のトラブル背景には内示情報による手配の問題があります。内示手配は契約社会の海外取引ではあまりみられない日本独特の取引形態です。そもそもは下請の部品会社に長期的は生産準備をしてもらうために親切心として始まった情報提供です。いつのまにか内示情報を流しているからと、納期ぎりぎりまで注文を出さないという大企業が増えました。

さらにトヨタ生産を模倣したジャストインタイム(JIT)調達ブームが日本の大手企業の内示&短納期確定注文手配を広めました。下請会社も取引がなくならないように健気に親会社の内示&短納期確定注文手配に対応してきました。

ところが、人手不足や材料不足、災害対応など様々な事情が原因で、下請会社の納期対応力が弱くなり、短納期納入自体が成り立たなくなってきました。それが今回のような内示情報に基づくトラブル発生を増幅させています。

A社にとって最良の方法は、B社にそれなりのリードタイムを確保したうえでの確定注文で発注してもらうことです。さらにもしも計画変更があったとしても注文通りの納期に引き取ってもらうことが望まれます。まずはB社に対して上記要求を交渉してみることです。実際にそうした形に契約を変更した部品取引もでてきていますので。時代の変化が後押ししてくれる可能性もあります。

しかし、今までJIT調達で動いてきたB社がこうした対応に変えることは簡単ではありません。そこでA社が単独でできる解決策を3点紹介します。

・3点の対応策

一つ目の対応はできるだけリードタイムを短縮することです。加工工場の場合はリードタイムの大半は工程間の待ち時間です。筆者が提唱しているリードタイム分析アプローチにより待ち時間を短縮して、注文変動に対応できる企業体質を実現するようにします。

二つ目の対応は製造進捗管理を強化することです。変更に柔軟に対応するために当該オーダーが現時点でどういった状況にあるのかがリアルタイムでわかることが重要です。進捗状況を簡単につかめない工場は、早急に進捗状況をつかめる仕組みを構築するようにします。製造番号や製造ロット番号を使って進捗管理するのが効果的です。また、クラウドを利用して自社内だけでなく、二次下請けなどの外注先の進捗管理も管理できればそれにこしたことはありません。

三つ目の対応は取引相手の内示。注文情報の変化状況を分析することです。グラフを作って相手の内示がどういった形の変動をしているのかを可視化して、変動状況を予測します。それにあわせて先行手配調整するといった対策をとります。

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