新しく生産管理システムを導入したにもかかわらずうまく動かないので、古いシステムもそのまま使っている状態だ。旧システムをメンテナンスできる人がいなくなってしまったため、このままではいけないと思うのだが、どうすればよいのかわからない。今回は、こうした新システムと旧システムが共存している企業のトラブル事例を紹介する
【トラブルカルテ】
ERPパッケージに入れ替えるはずだったのに、機能不足で旧システムをなくせなかった
A社は年商50億円の電子機器メーカーである。従来は自社の社員がVisual Basic言語で作った生産管理システムを使っていたが、システムを作った当該社員が退職したため、システムのメンテンナンスをすることができなくなった。各業務部門では生産管理システム(以下旧システム)に加えてExcelを使って日常業務を何とかこなしていた。
ある日、システム会社の営業から社長のところに電話があり、テレビコマーシャルなどにも流れているERPパッケージを売り込んできた。社長は、現場のシステムに対する不満の声を聴いていたので、早速システム会社の営業を呼んだ。
この会社のシステムは電子機器メーカーの生産管理システムとしても多数の導入実績があるので、すぐにシステムを入れ替えることができるとの話であった。
導入費用は約5000万円、従来の自社開発に比べれば多額な投資ではあったが、社長はERPパッケージの導入を決断した。
ERPだけでは業務がまわらない
システム会社からはシステム導入作業は順調に進んでいるとの報告が上がっていた。しかしシステムテスト段階で、旧システムで行っていたいくつかの業務処理ができないことが判明した。たとえば、次の機能が不足していた。一部の部品は各部品の製造番号とそれを使った製品の製造番号を記録しておく必要があったが、パッケージではそこまでの厳密な管理はできなかった。
A社は取引先からの内示計画変更が多く、変更のたびに新システムの計画情報や生産指示を変更していては業務が成り立たない。自社開発の旧システムにはこうしたことをカバーする機能が組み込まれていたが、新システムのERPパッケージは十分な対応はできなかった。
仕方なく、A社はERPパッケージによる生産管理システムは電子部品の購入処理にだけ使うようにし、生産計画、生産管理、在庫管理などは従来使っていた旧システムをそのまま継続利用することになった。
ただし、旧システムをいじることはできないので両者をシステム連携することは諦めた。このため購買部門や在庫管理部門の担当者が、手作業で両システムにデータを二重入力している。現場担当者からは、余計な事務作業が増えたという苦情が相次いでいる。しかし、新システムの導入は社長の決断であったこともあり、管理職は不問に付している。
【診断結果と処方せん】
フィット・ギャップ分析をしっかりと行い、ギャップがあるパッケージは採用しない高額な投資をして新システムに刷新するなら。旧システムはなくせるであろう。
経営者はこう考えるのが普通だ。ところが、この事例のような相談を受けることが増えている。なぜこうしたことが起きるかというと、業務パッケージを利用するときに欠かせないフィット・ギャップ分析(FG分析)を行わずに、無理やりパッケージを販売するシステム業者(ベンダー)いるためである。特に営業ノルマの厳しいシステム業者のパッケージ提案には注意が必要だ。
システム開発の段階で、当該パッケージでは現行の業務処理内容をカバーできないとわかれば、その時点で提案を取り下げるべきだ。ところがそれでは自分の営業成績が落ちてしまう。そこで、旧システムとの併存を持ち掛けてくる営業担当者が多い。
ユーザ側も今までの投資や検討時間をムダにすることができないので、仕方なく旧システムを残して業務運用している。同社のように導入を決断した経営層への忖度で、現場に不満があろうがなかろうが何もしないという工場もある。
この問題を防ぐには、パッケージの選定前に第三者コンサルタントに頼んで基本設計をしてもらうか、構築初期段階でフィット・ギャップ分析内容を評価してもらうことが重要だ。ところが過度に業者を信用することでこのプロセスを省略してしまう企業がいる。大手ベンダーに頼んだので何とかするだろうと考える人もいる。実際に問題に気が付くのは後戻りができない手遅れの時期になってからだ。
分析結果を第三者にチェックしてもらう
しかし、たとえ手遅れであっても第三者の業務コンサルタントに相談して適切な助言をもらうことを推奨する。追加開発投資がまったくない状態での解決は難しいかもしれないが、追加投資が少なくても済む暫定的な対応策を提案してもらえることは十分に考えられる。業務実務に関する知識のあるコンサルタントなら数十万円程度の調査でも、何らかの対応策を提案できるはずだ。
ところで、こうしたケースでの追加投資費用(コンサル費用、追加開発費用など)の発生を嫌がる企業経営者がいる。旧システムさえ残っていれば、たとえ二重入力などの現場の事務工数が増えても経営的には大きな問題ではない。むしろ、安易な業者選定をした当該企業の経営決断にも大きな問題があり、それが表ざたにならないようにするためである。はた目には詐欺に近い行為と映るにもかかわらす、ベンダーが強気でいられるのはこういった経営姿勢をとる経営者が残っているためだ。