伝統のある工場ほど製造現場の力が強く、独自に工程管理をしようとする傾向があります。今回は現場主体が原因で全体最適の実現に支障が出ている工場のトラブル事例を紹介します。
【トラブルカルテ】
・製造リードタイム短縮に取り組んだが思うように進まない
A社は機械製品を製造している大手メーカです。製造事業場の中心は機械の組立工場ですが、同じ敷地内に金属を加工して部品に仕上げる部品加工工場があります。部品加工工場では外部から仕入れた鋳造品に切削、熱処理、研磨、穴あけなどの加工を施して機械に組み入れる部品を製造しています。加工工場の作業員には長年にわたって部品加工を担当してきたベテラン社員が多く、加工技術も管理能力も高い状態にあります。
A社の製品は順調に売れていましたが、最近はライバル企業に負けるケースも増えてきました。営業からはライバル企業に比べて納期が長いために、失注するケースがあるという結果が報告されています。
A社の生産管理は約20年前に構築されたシステムを適宜改変しながら使っていました。ベースとなっているのは構成部品の購買機能です。工場内の製造手配や進捗管理は生産管理システムでは管理せずに現場任せとされていました。
この状態のままではリードタイムを短縮することは難しいので、A社では生産管理体制を強化してリードタイム短縮を目指すことになりました。生産管理部を設置して製造計画を立案し、情報システムを使って製造指示するようにしました。製造指示は組立工程だけでなく、部品加工工程も対象としました。
・現場が指示通りに動いてくれない
生産管理システムの運用を開始してみたが、部品加工工場での納期遅れが目につきましたた。部品加工工場には独自の工程製造指示ルールがあり、そのルールに従って製造していることがわかりました。
部品加工工場は機械の最終納期が迫ってい順に製造するのを基本としていました。さらに納期に余裕がある部品は、製造効率を高めるために段取り替え時間の少ない順番で製造するようにしていました。それをコントロールするためのExcelツールがあり、それを製造班長が使って製造順を調整していました。現場はこのツールの利用を優先し、新生産管理システムから出てくる指示は無視されることが多くありました。
リードタイムに余裕があればこうした部分最適方法でも何とかなりましが、現在はそれが許されません。納期遅れが頻発するようになり、特急製造指示が乱発されるようになりました。
【診断結果と処方箋】
本事例は歴史の長い工場の製造現場で遭遇することの多い事例です。生産管理部がいくら指示通りに作ってほしいと依頼しても、プライド高い作業員ほど自分たちのやり方に固執しがちです。こうした状況にある工場が取り組むべき主な解決方法に二点あります。
・進捗実績を把握する
第一の方法は、タイムリーな進捗実績の把握です。納期管理を現場任せにしてきた工場ほど、実際の製造工程の進捗状況を掴んでいないことが多いようです。この状態で現場に対して改善を要望しても聞き流されるだけです。実際の加工工場でのリードタイムはどうなっているのか。過度な工程間滞留が発生していないか。納期遅れはどの程度発生しているのかといった情報を整理して現場を説得することが求められます。
加工品の製造進捗情報や工程間滞留情報をタイムリーにとるための工程管理方法が、製造ロット単位に採番された番号を追いかける製造ロット番号管理です。日本の加工工場では一般的な工程進捗管理方法ですが、MRPパッケージを使っている工場ではロット進捗データがとれないことがあります。MRPは現場が計画通りに作業することを前提とした計画ロジックですので、現場が計画通りに動かないということはあまり考慮していません。そのためもあって進捗監視機能が軽視されています。
現状のシステムだけでは進捗管理ができないようであれば、MES(製造実行システム)や工程管理システムの追加導入が必要です。そうした工場向けに製造ロット番号管理が簡単にできる工程管理テンプレートを用意しました。
ただしいくら優秀なシステムがあっても、現場がしっかりとデータを入力してくれないのであれば意味がありません。従業員研修などを通じた意識改革もあわせて実施する必要があります。
・現場に余計な情報を流さない
第二の方法は、製造現場に余計な情報を流さないことです。加工工場には機械の最終納期を示さないといったことが考えられます。最終納期が示されなければ現場は余計なことは考えずに、システムからの指示か、先入先出(FIFO)で生産するしかありません。現場の独自運用を防ぐにはこれが最も手っ取り早い解決策です。
ただしこの変更は現場にとってはかなり大きな方針変更であり抵抗を受けやすい内容です。生産管理部は自分たちでしっかりと進捗管理するとの宣言をせざるを得ません。その覚悟が必要なのでとてもハードルが高い変更です。また上記のような進捗管理システムがなければ実現はできません。
筆者のようなコンサルタントが悪者になって強引に推進することも最終手段ともいえる選択肢です。