経産省がDXレポートで広めた「2025年の崖」ということばがあります。このことばは日本企業に残っている旧式なレガシーシステムが日本のIT活用やDXが遅れる原因となっているという話です。レポートで紹介されているレガシーシステムにはメインフレーム、オフコン、SAP社の旧ERPなどがあります。

2025年はSAP社の旧ERPのサポート切れ時期(その後延期)からきていますが、この話は日本製を含む、多くのERPパッケージソフトに共通する問題であることがわかってきました。対象は2000年代に導入が進んだクラサバ型のERPパッケージソフトです。

クラサバとはクライアントサーバの略で、当時のオープン系システムで盛んに使われた仕組み技術です。クライアントPC上のソフトとサーバ上のソフトがネットワーク連携して動きます。一般的にクライアントPCは画面処理を、サーバはデータ処理を担います。

PCとサーバが性能分担することでレスポンスが向上し、操作性が高まります。そのかわりに、クラサバ型は各PCにクライアントソフトをインストールしなければ動かないので、PCソフトの管理が負担となります。

現在のシステムではクラサバ型は少なく、PCやタブレットにEdgeやChromeのようなWebブラウザが入っていればすぐに利用できるWebインタフェース型のシステムが主流になっています。マイクロソフトやオラクルといった企業はWeb型と親和性の高いクラウドシステムにベース技術を進化させていますので、クラサバ技術は時代遅れとなりました。PCとサーバをつなぐ連携ソフト(ミドルウエア)も減ってきています。

こうした技術変化を受けてサポート停止を表明するクラサバ型のERPパッケージソフトが増えています。冒頭でも紹介しましたが、私のところにも6種類の国内外のERPパッケージソフトのサポート停止に関連する相談が来ています。

このクラサバ型のERPパッケージのサポート停止問題への対策には4つあります。

 1.クラサバ型からWeb型へバージョンアップした同じERPパッケージを使う

 2.別の新しいWeb型ERPパッケージに入れ替える

 3.ローコード開発ツールを使って、最初から基幹業務システムを作り直す

 4.旧バージョンの古いPCを何とかそのまま使って運用する

本来ならベンダ責任で1をするのが最も好ましそうですが、この対策はベンダにとっても作り直し負担や移行リスクが大きく、多額のERPバージョンアップ費用が必要となります。ベンダから億単位の費用を請求されたり、導入費用よりもバージョンアップ費用の方が高いといったケースもあります。とくに大幅なロジックカスタマイズ(改造)をしたERPパッケージとなるとベンダも手を付けたくないのが本音です。移行作業を断るかわりに法外なバージョンアップ費用を要求してくることもあるようです。

事実上1が難しいことで、2を検討する企業も多いです。しかし、パッケージをカスタマイズしているような企業が、簡単に新しいERPパッケージに移行できるかどうかはわかりません。提案依頼しても提案を辞退するベンダも多くいます。業務を自社のERPパッケージ合わせればいいとアピールするベンダもいますが、現在のERPパッケージのカスタマイズ内容を分析してからでないとうまく移行できるかどうかはわかりません。とくにFit to Standardといった安易な提案をするERPベンダには注意しましょう。

3は1や2に比べると導入しやすく、ローコード開発ツールを使うことで費用も安く抑えられますが、システム設計作業が必要となります。日本のIT関係者にはシステム設計ができる人が少ないという問題が残ります。

その結果、4のそのまま使っての運用を余儀なくされている企業が多いですが、いつまでERPパッケージベンダが対応してくれるかは未知数です。ある日突然に動かなくなったり、サポート停止を宣言されたりする危険性もゼロではありませんので、対策を先送りすることで致命的な問題に発展するリスクが残ります。

それではどうすればいいか。まさに崖っぷちといってもいいほどの難しい問題です。まずは手遅れにならないうちにERPパッケージベンダに今後のサポート方針を確認しましょう。

自社のシステムがクラサバ型かどうかは、利用時にPC上に利用ソフトをインストールしたかどうかですぐにわかります。もしも貴社でクラサバ型のERPシステムを使っているようであれば注意してください。

相談の中には、せっかくシステムを入れ替えるなら、現在のERPパッケージで不便を強いられている問題を解消したいという相談もあります。代表がMRP型ERPパッケージでの製番管理利用です。私の専門はこうした問題への助言ですのでこうした相談にも対応しています。