複数のERPパッケージユーザから、「ベンダーからバージョンアップに伴い高額なテスト費用を提示されて困っている」という相談を受けました。

バージョンアップ費用問題は、「2025年の崖」のきっかけにもなったSAP社のERPが代表です。SAP社の場合はDB(データベース)をOracleのような外部製品からSAP社が独自開発したDB(HANA)に変えます。そのため、機能追加がほとんどなくても多額な変更費用が発生します。

ところが、SAP社のような大変更がないはずの国産ERPパッケージでも、WindowsOSやDBツールの旧バージョンサポート停止を理由に、ERPのバージョンアップ作業に多額な費用を提示されることがあるようです。

バージョンアップによる新機能追加がほとんどないにも関わらず、導入時とほぼ同じ額(数千万円~数億円)のテスト費用が必要といわれている企業もあります。経営者からはなぜ多額のテスト費用がかかるのかと問われ、明確な説明ができずに困っている担当者も数多くいます。

なぜベンダが高額なテスト費用を要求してくるのでしょうか。

担当者の話を聞いているとクラサバ型ERPにロジックカスタマイズ(改造)をした企業でテスト費用が高額になりやすいようです。クラサバとはクライアントサーバの略で、クライアントPC上のソフトとサーバ上のソフトがネットワーク連携して動くタイプのシステムです。

クラサバは2000年前後に開発されたオープン系システムで使われた技術です。PCとサーバが性能分担することでレスポンスが向上し、操作性が高まります。そのかわりに、クラサバ型は各PCにクライアントソフトをインストールしなければ動かないので、PCソフトの管理が負担となります。

現在のシステムではクラサバ型は少なく、PCにWebブラウザが入っていれば利用できるWebインタフェース型のシステムが主流になっています。

クラサバ型はWeb型のシステムと違って複雑なシステム環境下で動いていますので、環境が変化したらそのまま動くかどうかわかりません。そのため、PCのOSバージョンアップであっても大々的な動作テストが必要になります。

この問題に更なる影響を与えているのが、大幅なロジックカスタマイズです。ロジックカスタマイズというのはERPの基本ロジックに影響を与えるような改造のことです。代表がMRPロジックのパッケージに後付けで製番管理指示機能を搭載するといった形の改造です。ロジックカスタマイズは外資系のERPでは原則行わない前提になっています。

そのかわりに利用者がExcelで機能不足を補完したり、ロジック不備を我慢して使っていますが、バージョンアップ費用だけは安く抑えられるようです(DBを変えたSAP社は論外です)。国産のERPパッケージの場合はベンダの優秀なエンジニアが顧客要望に応じて大幅なロジックカスタマイズをしてしまうこと多いようです。この対応が実は問題を生み出しています

複雑な連携処理を余儀なくされるクラサバ型システムで大幅改造してしまったら、バージョンアップ時に充分なテストしないと危なくて使えなくなるからです。

クラサバ型のシステムは毎回のOSバージョンアップするたびに多額なテスト費用が必要になる可能性もあります。皆さんの企業もしくは関連企業で、クラサバ型のERPパッケージをお使いであれば注意してください。

多額なバージョンアップ費用を請求されてもあわてないようにするには、自社のERPはどんなタイプのパッケージで、どんなカスタマイズをしているのかを整理しておく必要があります。カスタマイズ仕様をまとめたドキュメントが残っていないシステムもありますが、それだとベンダのテスト費用の妥当性を検証することも難しくなります。

バージョンアップやカスタマイズ仕様の整理で困っていたら当方まで連絡ください。私がプロジェクトに関与したからといって、ベンダの請求費用を安く抑えることができるかどうかはわかりませんが、バージョンアップに伴うリスクを整理することはできると思います。