「生産管理システムだけでは、リードタイムが短くならない。そこで、新たにスケジューラ(工程スケジューリングシステム)を導入したい。」

こうした相談を受けるケースが増えています。今回はせっかくスケジューラを入れたのにうまく活用できなかった事例を紹介します。

【トラブルカルテ】

企業規模が大きくなるに従って製品新種が増えたことで、各工程の製造計画が難しくなった
 A社は年商100億円の加工部品メーカーである。外部から購入した金属材料を成形、熱処理、溶接、表面処理、組立などの製造工程を経て製品に加工して出荷している。会社規模が小さい時代は製品品種も少なかったので、オーダー順に工程投入していれば順調に製造できた。

ところが、製造する製品が多くなるにつれ製造工程間に滞留する仕掛品が増えたうえに、約束納期に対する納期遅れを起こす製品も出てきた。一部の工程は恒常的に能力不足状態が続くようになり、外注会社への製造委託を増やすしかない状況になった。

仕掛品増加、納期遅れ対策にスケジューラを導入したが・・・
 A社ではこうした事態を改善するためにスケジューラを導入することにした。生産担当常務がスケジューラ代理店の開催した導入事例セミナーに出席したことがきっかけだった。

A社はかねてより、各製造設備の作業時間をこまめに計測していた。その時間を使ってスケジューラを短時間で動かすことができた。スケジューラを使うことで工程能力不足や納期遅れがすぐに把握できるようになったため、それまで納期調整に追われていた管理担当者からはおおむね好評であった。

ところが、スケジューラを導入してから半年ほど経過した時に経理部からスケジューラが本格稼働してから利益が減少しているとの報告があった。取引先業界が好調だったこともあり、A社の売り上げは伸びていた。売り上げ増に伴い利益も増えるはずであった。

コンサルタントになぜ利益が増えないかを診断してもらったところ、衝撃の事実がみつかった。

A社の売上げはたしかに伸びていた。ところが、その伸び以上の費用が外注加工費として支出されていた。まさに穴の開いたバケツと同じである。製品を売れば売るほど,外にお金が流れていってしまったのだ。

事前負荷検査がかえって外注加工費を増やすことに…
 なぜA社の外注加工費は増えたのか、コンサルタントからは、スケジューラの導入が影響していることが指摘された。それまでのA社の工場では、製造オーダーが入るとまずは現場に製造指示を出して製造していた。外注加工にだすのは自社に加工設備がないとか、このままではどうして納期に間に合わないことが分かった時だけであった。

生産管理担当者は製造現場から怒鳴られてばかりであったが、現場の努力で納期遅れは回避されていた。スケジューラを使うと製造指示を出す前に、そのオーダーが負荷オーバーにより納期遅れを起こすかどうかシミュレートできる。

それをみた生産管理担当者は、安全を見て早めに外注加工に出していた。A社では内部加工費も外注加工費も同じ製造原価として管理してきたため、コンサルタントに指摘されるまで外注加工費を増やしすぎると利益が減少することにも気付いていなかった。

【診断結果と処方せん】

スケジューラの利用は簡単ではない。自社の業務実態を把握することが重要。
 何千万円から何十億円の投資が必要な生産管理システムとは違い、スケジューラは数百万円程度の投資で導入できる。そのため安易にスケジューラに飛びつく工場も多い。

しかし、スケジューラの利用は簡単にはいかない。スケジューラは不良品をほとんど出さない完全自動化工場では有効だが、生産変動の多い人手作業中心の工場では計画精度が落ちる。製造現場が数値計画通りには作業できないとか、調整作業やサバ読みにより作業時間が変化するためだ。

スケジューラではこの変動を吸収するために標準時間に余裕時間を加味する。その結果スケジューラを使うよりも現場に作業を任せた方が短期で作ることができる。今回の事例ではこの問題が表面化した。

製造現場や外注加工業者の努力で納期調整を行ってきた工場ほど、スケジューラを入れるとリードタイムは長くなりやすい。計算結果を生産管理部が素直に信じてしまうと外注依存の増加や、過度な受注調整に陥って利益創出の機会を逸してしまいやすい。この問題を防ぐためには、スケジューラの計算結果はあくまでも目安に過ぎないという意識をもって計算結果を利用することが大切だ。製造現場の統制が不十分だったり、標準時間の精度が低かったりした場合は参考程度にしか使えない。

スケジューラ導入の前に実績管理システムによる製造実績分析を強化し、自社の業務実態を把握することが重要だ。さらにスケジューラでいきなり納期シミュレーションするのではなく、まずは負荷山積み計算だけを実施し、実績数字との差異がなくなるのを待ってから納期シミュレーションに取り組むようにしたい。