ERPベンダや外資系コンサル会社が、「Fit To Standard」という宣伝文句(バズワード)を使うケースが増えています。そもそもERP導入では「ERPに業務を合わせる(Fit To ERP)」が前提だったはずでした。なぜこんな言葉が今更でてくるのか不思議に思われている方も多いのではないでしょうか。

最新号の日経コンピュータにこの言葉に関する記事が出ていました。それを読むとこの言葉は自社の業務をERPの標準に合わせろという従来の使われ方よりも、ERPは標準機能を中心に使うようにという意味に変化しているようです。

各企業が様々な種類の商慣習や生産形態の中で行っている業務を一方的にERP標準に合わせろというのは現実的ではありません。ERPに業務をあわせるというのはベンダによるお題目に過ぎず、大半の企業がERPへの大幅カスタマイズを余儀なくされました。安価に構築できるはずだったERPパッケージによるシステム開発ですが、蓋を開けてみると法外なカスタマイズ費用がかかり、騙された感を抱いた企業関係者も多数います(カスタマイズがないとSI会社が儲からないという背景もあるようです)。

ERPカスタマイズ問題は、ERP導入企業だけでなくERPベンダのビジネスにとっても重荷になってきているようです。個別カスタマイズによって機能追加やバージョン管理が難しくなったほか、クラウド化への障害にもなってきています。多くのERPベンダは安易なカスタマイズが発生しないようにERPの機能は標準的な機能に絞って使うに推奨するようになりました。

カスタマイズが発生しやすいロジスティクス関連業務はERPから独立してアドオン開発したり、専門パッケージを併用したりして、ERPは標準機能だけをそのまま使うという形です。

ERPは財務会計とか経営数字の分析機能などに限定利用し、個別色の強い業務系のシステムはローコード開発ツールで個別に設計・開発します。

外資系ERPベンダはこのアプローチを称して「Fit To Standard」と呼んでいるようです。いずれ彼らはカスタマイズが横行したERPバージョンのサポートを停止するでしょうから、その時に取り残される日本企業もたくさんでそうです。

このことは日本のSIベンダが推進してきた統合基幹業務管理パッケージとしてのERP活用アプローチとは大きく違います。企業の業務システムはERPにあわせるのではなく、個別設計で開発するというのは、かつての個別システムの開発方向に回帰していることを意味します。

すなわち統合基幹業務管理パッケージとしてのERP活用の終焉が近づいているといえます。

ただし、ここで問題なのはERPがもてはやされていた間に、生産管理や販売・在庫管理などの個別業務システムの設計ができるIT関係者がほとんどいなくなってしまったことです。

このままだと業務システム設計不備によるトラブルが頻発する可能性が心配されます。業務システムの設計者がいないことで、業務システム構築がうまくいかずに困っている企業や現場での独自Excel処理が増えて業務統制がとれなくなる企業も続出する恐れがあることにつながります。皆さんの会社は大丈夫でしょうか。日本企業の生産性を高めるためにも早急に関係者の業務システム知識を増やす必要があります。

小生の生産管理研修はそのために開催していますので、ぜひ活用してください。