第2回は食品工場向け生産管理パッケージに関わるシステム導入トラブルを紹介する。
食品工場と書くとテレビCMなどで有名な大企業もしくは地場の中小食品工場を想像する方も多いと思う。
実際には他の食品メーカーや流通業者などから受託して、OEM(PB)食品や商品のベースとなる調味料や食材を作っている中堅工場が多い。
本事例もそうした工場をモデルにしたトラブル事例である。
類似の業種には化粧品、医薬品、化学品などの受託工場がある。
共通的な工場の特徴としては受注生産で製造品種数が多いことが挙げられる。
【トラブルカルテ】
生産量・管理項目急増に伴い生産管理システムを導入。
食品工場向けパッケージを採用したが、計画調整や変更対応ができない
A社は年商50億円の業務用調味料メーカーである。業務用調味料は外食チェーン店本部や業務用食品問屋の専用レシピ(配合表)に基づき、複数の原材料をタンクで攪拌して製造する。
当初は近所の居酒屋店舗からの依頼ではじめた業務用製造だったが、外食産業拡大の波にのって成長した。現在は主要取引先も20社を超え、500種類を超える調味料を製造している。
製品品種が少ない時代はタンクごとに担当者がついて毎月同じ順番に決められた量の調味料を製造して納入していた。
ところが、取引先が急成長するにつれ生産量や要求納期の変更が頻発し、現場だけで管理することは難しくなってきた。
さらにA社が調達する材料の種類も増え、現場の材料手配や在庫管理の手間も増えていった。
初めての生産管理システム導入に
そこでA社は生産管理パッケージを使って生産管理を行うことを決断し、複数の生産管理システムのベンダーにシステム提案依頼を行った。
旧オフコンディーラーのB社からは食品工場向け生産管理パッケージを提案された。
B社の説明では本パッケージは多数の食品工場が使っており、ほぼそのままの状態でシステムを構築できるとの紹介があった。
実際にパッケージのデモをしてもらったが、今まで生産管理システムを使ったことがなかったので何を確認すればいいのかわからなかった。
原材料の注文書などひと通りの伝票が発行されたので、素人目には問題なく利用できると思われた。
B社の営業要員が熱心に通ってきたこともあり、B社の食品工場向け生産管理パッケージを採用した。
実際に生産管理システムを運用してみると、システムから注文書や製造レシピなど生産に必要な最低限の伝票は発行されるが、生産計画調整や変更対応には十分に対応できないことが判明した。
本システムは小売店で販売するような消費食品の製造に使う食品の原材料をレシピ展開して計画調達するためのシステムであった。
食品工場向けとしているのはレシピ展開時に容器の数量単位から材料の重量単位への単位換算計算機能を追加してあるためだった。
ベンダーにスケジューリングシステムの導入を進められたが・・・
A社のような受注生産型の食品メーカーの製造手配に柔軟に対応することはできなかった。
B社の営業にその話をしたが、A社が望むような製造工程の計画機能はパッケージにはないので、新たにスケジューリングシステムを購入してほしいとのことであった。
A社ではスケジューリングシステム導入検討もしたが、生産量によって拡販時間が変わるとかタンクの洗浄時間の設定が厄介なことなどからスケジューリングシステムの利用は難しいという結論になった。
現在は計画担当者がExcelを使ってスケジュール管理しているが、実質的には注文順に作っているにすぎず、期待したような製造効率は得られていない。
【診断結果と処方せん】
ベンダーの紹介を鵜呑みにパッケージを選定するのは危険!基本設計書を基に最適なパッケージを見極める
本トラブルは急成長した中堅工場でよく遭遇する。
中堅企業では生産管理は手作業やExcelで行ってきたところが多い。
生産管理システムを使ったことがある役員や従業員がほとんどいない企業も多い。
会計システムや販売管理システムなどは市販のパッケージを利用している企業があり、市販の業種対応生産管理パッケージをそのまま使うことができると思いがちだ。
販売側のITベンダーもそうしたユーザ心理を巧みについて、“食品工場向け”といった形で当該業種専用のパッケージが存在するようなPRをしてくる。
しかし、実際には汎用生産管理パッケージを同種の工場向けに多少改造したに過ぎないパッケージも多い。
しかも同じ業種工場の生産業務は似ているとはいえ、取引先や商品の性格によって、手配の仕方や生産の仕方は微妙に変わってくる。
生産管理システムは会計業務や販売業務のように伝票を処理できればよいとはいかない。
同業者であっても全く同じ仕組みで動くことは少ない。パッケージタイトルだけで安易に使えると判断するのは危険だ。
こうした導入トラブルを防ぐためには、システム導入の前に自社内もしくは外部のコンサルタントに頼んで生産管理システムの基本設計することが重要だ。
基本設計書で確認したはずなのに、受注後に再見積もりすることを前提に提案してくるようなベンダーは、まともに商談対応しているかどうか怪しい。こうしたベンダーは検討対象から除外するのが望ましい。
基本設計をコンサルタントに依頼する場合にも、パッケージベンダーに渡す形式的なRFP(提案依頼)しか作成できないコンサルトもいるので注意したい。
たとえばRFPに「食品工場に適用できる生産管理パッケージを提案すること」としか書いていないとか、現状の事務処理フローをただ整理しただけの資料しかないといったこともある。
これらの資料だけでは十分な基本設計はできない。
ベンダーが厳密な見積もりすることも難しい。受注してから金額修整すればいいと夢物語の羅列だけを安く提案してくるベンダーもいるので注意が必要だ。
生産管理システム導入トラブルを見ていると、こうしたいい加減なRFPでシステム選定したといったケースが散見される。
スクラッチ開発、プロトタイプ開発、パッケージ導入といった導入方法にかかわらず、必ず事前に基本設計を行ってからシステム構築やベンダー選定に入ることが望ましい。
パッケージを前提にしたRFPであっても基本設計してからまとめることが重要だ。