今回はシステムトラブルはなく工場運用に関するトラブルの話です。
かんばん生産はうまく動けば効果が出ますが、計画変動が激しいと混乱が広がります。
半導体不足のために本家のトヨタですらうまく機能しない状態が続いています。
【トラブルカルテ】
納期遅れ対策としてかんばん方式を導入したが、特定の取引先の部品製造で仕掛在庫が急増。改善だけでは対応しきれなくなった
トヨタ生産方式(TPS)というと「ジャスト・イン・タイム(JIT)」や「在庫は悪」ということばのイメージから、徹底的な在庫削減を想像される方も多い。
そのトヨタ生産方式で用いる仕掛コントロールツールに「かんばん」がある。
トヨタの経営に憧れる企業関係者を中心に、自工場にも「かんばん」を適用して在庫削減を目指す人がいる。
今回はかんばんを導入したことで逆に仕掛在庫が増えてしまった、自動車部品会社の事例を紹介する。
A社は年商400億円の中堅の自動車部品加工会社である。
金属材料を切削加工したり、熱処理したりして製造した部品を組み合わせてユニット部品を作り複数の自動車会社に納入している。
各自動車会社からはEDI経由で月単位の内示情報(3か月前から)と注文情報(1~2週間前)を受け取っている。
A社の標準的な生産リードタイムは約30日なので、注文が来てからの生産開始では間に合わず、2か月前時点の内示情報を参考にして生産手配に入ることにしている。
かんばん方式を導入し、定着していたが・・・・
取引先の自動車会社が増えるにつれ、生産品種も増えている。
それに伴い工程切り替えなどによる工程間仕掛在庫も増加するようになった。
標準リードタイム以内の生産もできない状態が増え、納期遅れも頻発するようになった。
A社の工場管理部門ではこれらの問題を解決するために外部のTPSコンサルタントの指導を仰いだ。
コンサルタントはTPSで用いる「かんばん」による生産を提案した。
A社の工場管理部門はトヨタの生産に憧れていたこともあり、かんばんを導入することにした。
それまでのA社は工場の製造部門の力が強く、製造部門が独自に各工程の製造順を決めて製造することも多かった。
かんばん方式の導入はこの考え方を覆す改善である。
導入当初は現場の抵抗が激しかったが、徐々に現場も協力するようになりかんばんによる生産は定着していった。
いくつかの自動車会社向けの部品では仕掛在庫が減り、生産リードタイムの短縮も実現できた。
仕掛在庫増加で生産現場が混乱
ところが、B社向けの自動車部品だけはかんばん導入後に仕掛在庫が増えていることが判明した。
コンサルタントに相談したところ、B社は発注量の変動が激しく、かんばんが偏在するために一部の工程で仕掛在庫がたまっているようにみえる。
これはかんばんが機能している証なのでそれほど心配する必要はない。
リードタイム短縮活動を徹底すれば何とかなるという話であった。
A社の工場管理部はそのまま1年間様子を見ていたが、一向に仕掛在庫が減らないばかりか、B社向け製品製造が他の自動車会社向けの部品製造を混乱させるケースも増えてきた。
これは改善活動によって現場調整の余地が少なくなったためであるが、工場現場からはかんばん導入自体が失敗であり、昔のように製造現場による調整に戻すべきだという声が上がるようになった。
管理部が製造現場の意見をきいたところB社向けの自動車部品は生産変動が激しいので、従来は現場が頻繁に製造順を調整していたそうだ。
かんばん導入により現場調整をしなくなったので生産変動がそのまま仕掛在庫や現場混乱として顕在化しているとのことであった。
A社はB社向けの部品生産にかんばんを使うことを止めて内示通りに作っている。
その結果、仕掛品在庫は減ったが、そのかわりに製品在庫が増えている。今後どういった形で管理していくか悩んでいる。
【診断結果と処方せん】
かんばん方式はどこでも通用するわけではない。取引先の内示精度を見極めてから導入する
この問題はかんばん運用の前提条件を軽視したことに原因がある。
トヨタ自動車およびトヨタ系部品会社でかんばんが問題なく動いているからといって、どこの会社向けの部品生産でも問題なく動くと考えるのは早計だ。
かんばんはその仕組み上安定した生産が継続している環境でないと機能しない。
生産変動が起きるとかんばんが偏在化してしまい各製造工程の稼働も変化してしまう。
この問題はよく知られている。
ただし、この場合はかんばん枚数が増えているわけではないので仕掛在庫の量が増えることはない。
A社のケースで問題になっているのは、B社の内示精度の問題だ。
A社の初工程の生産開始はかんばんではなく、自動車会社からの内示をもとに行っている。
内示による生産オーダーがかんばんと合致した時点で生産オーダーはかんばん伝票に置き換わる。
内示と確定注文が大きく変わらない状態であればこのやり方でも問題はないが、親会社から得られる内示が大きく変化すると成り立たなくなる。
一般的に内示は注文よりも多めの数字がでてくることが多いが、この差が大きすぎると、工程途中で生産オーダーとかんばんが紐つかなくなり、仕掛品の滞留が発生する。
内示情報をそのまま用いるのではなく、あらかじめ調整して生産すればすむようにも思われる。
ただし、調整したときにもし内示通りの注文が来たら欠品してしまう可能性がある。
そのため内示通りに生産をせざるを得ない工場も多い。かんばん方式を適用するには取引先の生産変動や内示精度を十分に分析して導入検討することが求められる。