トラブル事例の第4回は販売計画にまつわるトラブル事例です。

「販売計画は営業部門が作るべき」という常識は過去のものになりつつあります。

現在もこのテーマでの改善コンサルをしています。事例企業とは業界が違いますが、この問題で悩む企業が急増していますので注意してください。

第4回 販売計画の精度が低く混乱している(工具メーカー)

生産管理の教科書には生産計画は営業部門が作成した販売計画をベースに立案すると紹介されている。

その影響からか生産混乱の原因を、営業部門が作る販売計画の精度が低いせいだと指摘する工場関係者も多い。今回のトラブル事例はそんな工場の話を紹介する。

【トラブルカルテ】

営業が作る販売計画の精度が落ちたことと在庫削減により、工場が追加生産に対応できない

A社は年商200億円の汎用工具メーカーである。

金属加工部品などを組み合わせて工具を作って販売している。当社の製品は商品カタログに掲載している標準品が主体だ。

構成部品は外部会社から購入する「購入部品」、社内設備で加工する「内製部品」、外注の加工会社に加工を依頼する「外注部品」がある。内製部品でも熱処理など工程の一部を外注するケースもある。

長年、3か月前につくった販売計画に沿った計画生産で対応

構成部品の手配(購買、加工)リードタイムは1~2か月だが、電機系部品には3か月以上前には発注しないと間に合わない部品もある。

工具の組立自体は1週間もあればできるので、生産計画の主体は部品の購入計画及び加工計画が握っている。

工場は営業部門が販売月の3か月前に作った販売計画をもとに生産計画を策定して部品手配をしている。

組立日程計画は前月に立てた販売・在庫計画、部品在庫、部品入庫計画などを参考に組立現場の班長が作成している。

3か月前と前月の販売計画に差異がほとんどない状態であれば、順調に製品生産ができる。過去のA社工場ではこのやり方で大きな生産混乱を起こさずに生産できていた。

追加生産への対応が十分できず、工場部門から営業部門への不信感が高まる

ところが近年このやり方がうまく機能しなくなってきた。

原因は営業が作る販売計画の精度が落ちたことである。

3か月前と前月の販売計画に大きな差異が発生するようになり、計画変更も相次ぐようになった。

経営者から製品在庫の量を減らすように要求されたことで、販売計画以上の販売が発生した場合でも在庫で補うわけにはいかなくなり、工場は短納期での追加生産を余儀なくされるようになった。

そうはいっても簡単に追加生産ができるわけではない。

組立だけであれば大きな問題はないが、部品調達が間に合わないからだ。

ところが追加生産ができないのは工場の努力不足だと経営者に注進する営業関係者もおり、工場側の営業部門への不信感が高まっている。

【診断結果と処方せん】

営業部門の販売計画に頼ることをやめて、工場主体での数量計画立案にシフトさせる

生産管理の教科書や多くの生産管理パッケージは生産の起点を販売計画においている。

ところが販売計画ほどあてにならないものはない。

そもそも日本の多くのメーカーは親会社からの発注で受注生産している。

親会社の調達計画が販売計画に該当するが、調達計画の変動や変更が少ない親会社はまれである。

実際には生産変動は頻繁に発生し、内示情報などないに等しいといった親会社も増えている。

この状態で営業部門に販売計画の精度向上といってもないものねだりと同じことになる。

最近は受注生産型だけでなく、事例企業のような計画生産型の企業でも、販売計画の精度が落ちてきている。

その背景に販売ルートの変化がある。

A社の場合、従来は中小の工具商経由の販売が多かった。

工具商相手の商売では、営業要員と工具商の間で販売計画にあわせた商品の納品交渉をすることができた。

たとえば期末に特別価格を提示して販売在庫品を増やしてもらうといったことである。

営業現場におけるこうした納品交渉のおかげで、営業担当の工夫で販売計画の精度を保つことができた。

けれども最近の販売ルートは、工具商にかわって大手通販会社などに代表される量販ルートが販売の中心となってきている。

彼らとの取引はEDIを利用したシステマティックな在庫補充手配が主体となっており、営業活動の重点も製品の押し込みから新商品の売り込みや新規取引先の開拓にシフトしてきている。

今までのように営業が納品量を交渉する余地は減ってきているので、いくら営業部門に販売計画の精度を向上させるように要請しても意味がない状況となっている。

処方せんとして個別商品の数量計画作成の主体を営業から工場に移す検討を推奨している。

基本数量計画は工場が需要予測することで算出する。

ただし、AIに代表されるような優秀な需要予測システムを使っても、それだけでは精度の高い需要予測は実現することはできない(AI入れればできると勘違いしている人は注意が必要)。

予測精度向上のため営業にそれを補完する情報を収集してもらうことも大事だ。

営業に補完してもらう情報は自社や取引先の置かれている環境によって変化する。

工場と営業部門で相談しながら決めていく。時には、在庫に頼るといった判断も重要となる。

自社内だけでこうしたドラスティックな方針転換が難しい場合は、外部のコンサルタントに支援を依頼することが望まれる。