コンサルティングをしていますと一般用語と企業会計用語で意味が違うものがあります。この違いに気付かずに改善活動すると現場は混乱します。
その代表が「生産性向上」です。一般用語の生産性向上には「少ない時間でたくさん作る」というイメージがあります。経営コンサルタントでもそういった使い方をする人がいます。「製造能力の高い設備を導入」したり、「現場改善に寄って作業時間を短縮」したりして生産個数を増やすといった使い方です。従来の何倍もの生産性が実現できたといったケースは、こうした生産個数増を指すことが多いようです。(製造時間短縮を生産性向上と称する場合もあります)
企業会計における「生産性向上」はこの意味とは少し違います。会計用語の生産性は「単位当たりの付加価値(≒スループット)」という意味で、個数ではなく金額を増やすことを意味します。一人当たりの付加価値を表す「労働生産性」といった使い方があります。
企業経営上はいくら生産能力や生産数量が増えても、営業部門が安く売ってしまうと生産性は増えたことにはなりません。生産性向上は「現場改善活動による生産能力向上」と「営業部門や生産管理部門のスループット拡大活動(売上拡大や内製化)」が両輪として機能することではじめて実現します。
利益数字が増えなければ業績改善にはならないのですから、正しい生産性向上とは会計用語の生産性を指すのは自明です。重要事項ですので現場改善活動に取り組む際にはこの違いには十分に注意してください。
生産性の分子である付加価値の使い方にも注意が必要です。評論家の中には日本の生産性をあげる、もしくは付加価値をあげるために日本の現場作業者の仕事を肉体労働から頭脳労働に切り替えるべきだと主張する人がいます。
しかし、付加価値は外部から得た金銭と、外部に支払った金銭の差を表しているだけで、稼ぎの内容は問いません。必ずしも頭脳を駆使する必要はありません。大学研究室のオーバードクターなどをみてもわかるように最近は頭脳労働者は飽和状態で、ガテン系の熟練職人こそが不足しています。どちらがすぐに付加価値額を稼げるかを考えればガテン系の職人を集める方が即効性が高いことは容易に想像できると思います。
詳しくは拙著『誰も教えてくれない「工場の損益管理」の疑問』をお読みください。