現在利用している生産管理パッケージのサポートベンダーから、突然にサポート停止を宣告された。WindowsやUNIXをベースにしたオープン系パッケージを使っている企業から相談を受けるケースが増えている。今回はパッケージのサポート停止問題に絡むトラブル事例を紹介する。

トラブルカルテ

 生産管理パッケージのサポート停止を通告されたが、経営者が難色A社は年商100億円の汎用機械のメーカである。2002年にそれまで導入していたオフコン上に構築した生産管理システムからオープン系(Windows)の生産管理パッケージを使ったシステムに変更した。生産管理システムの使い方は、受注処理と購買処理が中心である。製品受注があった時点であらかじめマスタ登録した部品構成表(BOM)に基づいて所要量展開計算し、部品の注文書を発行する。システムはすでに20年近く使ってきたので、注文書や納品伝票などの伝票発行システムとしての利用が定着している。

停止の理由はWindowsのバージョンアップ
 ある日、システムをサポートしているシステム会社が、パッケージベンダが現行システムのサポートを停止するらしいと伝えてきた。このパッケージは2000年前後に流行っていたクライアント・サーバ型のシステム形態で開発されていた。そのシステム形態を支えていたミドルウエアが新バージョンのWindowsに対応できなくなったということであった。

 パッケージベンダはこの機会にパッケージの構造を抜本的に変えることにした。大きな見直しポイントは、従来のクライアント・サーバ型からブラウザ型システムへの変更と、基盤となるデータベースシステムの変更とのことであった。

 この話を聞いたA社のシステム部は、いずれも技術的な変更のため、利用している機能はそのまま使えるのであろうということでシステムの切り替え稟議を先延ばしした。いよいよサポート停止時期が近付いてきたということでシステム会社から新システムへの切り替え費用の見積もりをとってみた。ところがシステム会社からは切り替え費用として約5000万円の見積もりがでてきた。

 システム会社の話では、A社はパッケージをそのまま使っていたわけでなく、取引先の事業特性や旧オフコンシステムの処理内容などにあわせたカスタマイズをして使っていたとのことであった。この追加開発分に関しては新たに開発しなおさなければならずそのための費用が膨れ上がるとの話であった。

システム部はあわてて経営者に相談をしたが、そもそもサポート切れはベンダの問題であり、そこに5000万円を投資することはできないという返事があった。なぜそんなパッケージを選んだのだという叱責もあった。

単純切り替えではない形で再提案したが・・・
 システム部は悩んだ末に新システムは現機能をそのまま引き継ぐのではなく、生産性向上を目指すシステムとして作り直すという形に変更して上申することにした。システム会社には最新のIoTツールやBIツールなどをちりばめたシステム提案図をつくってもらった。

経営者からは切り替え投資を回収できる効果が得られるのであればという条件付きでシステム切り替えの許可をもらった。

 ところが、この入れ替えプロジェクトはスタートとともに頓挫した。新システムの機能追加に関して事前にユーザ部門と相談していなかったために、プロジェクトスタートとともに追加機能に関する異論が噴出した。この際だからと理想論をふりかざすものもいたし、現場の作業を極力抑え込みたいので現行システムからの逸脱は認めないといったものまで様々な意見が交錯した。

 さらにシステム会社も新旧パッケージの機能の違いを十分に把握していないことがわかった。新パッケージの機能を比べてみたら、マスタ構造が変化していたこともあり、現状の標準機能でさえそのまま移行できるかどうかわからないという問題が発生した。

 パッケージベンダが設定したサポート切れ期日が近づく中で、切り替えプロジェクトは遅々として進まない状態が続いている。

診断結果と処方せん】

 現在のシステムはいつまで使える(使う)のか研究しておくことが大事パッケージのサポート切れといえば2027年問題といわれるSAP社のERPのサポート切れ対応が大きな問題となっている。しかし、こうしたサポート切れ問題はSAP社特有の問題ではない。SAPのような大企業向けパッケージだけでなく、中小企業向けのパッケージまで様々なパッケージで問題となっている。筆者の元にもいくつかの企業からどうしたらいいかという相談が相次いでいる。

 ところが、これらの支援コンサルがうまくいったというのは少ない。コンサルの過程でそのの企業が改善すべき業務内容や、業務システム強化の方向性を整理する。それによって新システムの投資対効果を明確にすることも可能だ。ところが、通常のシステム導入プロジェクトとは違い、効果のあがるシステムを構築することは難しい。どうしても旧システムのサポート切れ期日が足かせとなってしまう。期限切れが近づくにしたがい業務改善どころではなくなり、システム会社主導のつじつまあわせの切り替えでお茶を濁す形になりやすい。

 しかも切り替えが終わるとそれで一段落したと、社内の改善機運もしぼんでしまいがちだ。結果的に何のために切り替え投資したのかもわからなくなり、過去の伝票発行機と同じシステムができあがる。

もう少し時間があればと悔やまれる。
 この問題を防ぐためには、サポート期限に追い込まれる前に自社の生産管理システムの将来像を固めることが重要だ。そのためには自社のシステムの技術的な将来性に関しても研究しておくことが大事である。